春にして君を離れ アガサ・クリスティー著
![]() | 春にして君を離れ アガサ・クリスティー 中村 妙子 早川書房 2004-04-16 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
『春にして君を離れ』
とあることで悩んでいた時代のバイブル,と紹介されて読みました。
クリスティが別名で発表した作品ということで,事件が起こるミステリーではないけれど,真実が,少しずつはがれ落ちた壁の下から徐々に見えてくるような,スリル&サスペンスには変わりない。
クリスティは好きだったので,このタイトルもとても気になっていたこともあって,いい機会に読むことができました。
よかった。
ジェーンという,お嬢様女子校出身の母が,娘の看護のためにでかけていたバクダット(娘の夫が赴任中)から陸路で帰る途中,列車待ちの数日間のこと。砂漠のステーションで,持ってきていた本も読み尽くし,手紙も書いてしまって,日々なにかに取り紛れて忙しくしているけれど,何もしない数日間があれば,自分のことについて考えられるいい機会が得られるわね,と思っていた。
列車が予定より数日も遅れたせいで,だんだんと,自分のこと・自分と自分の周囲の人との関係や,これまでにあったことを思い返すことができた。
ジェーン。夫とも仲良く,子ども達も独立し,しっかりと生活し,過不足なくいい生活を得ていると自認している婦人。
女学校の同級生に偶然会った後に,数日の空白。
「ちゃんとものを考える余裕があったらどんなにいいか」と思っていても,
それが幸運にも訪れ,回顧することができたらどうなるかしら?
自分が正しかったと自信を持っていることがその通りだとは限らないし,
自身のある満足のある人こそ,真実が分かってしまうのでは?
砂漠のあちこちに,ひょっこり顔を出してくる「とかげ」のように,見ていたのに見えていなかったことが,どこかに顔をひょっこり出す。
どちらかというと,あの母親の被害者(家族たち)ではなく,母親の方に感情移入してしまった。私にも「とかげ」がいっぱい出てきそうなのに,忙しくして出てこないようにして,それこそ,砂漠で何もせず自分のことばかり考えていたいわ,でも考えるのは怖いわ,といった具合に。
一枚ずつ,彼女の見ていた表層がはがれていく様子が,怖かった。
そして,心が深くめくれていって,海底旅行をするくらいの大きな回帰の末に,どう元の場所に戻ってくるのかしら?
いろいろ分かって,それで,日常に復帰したときに,それでどんな振る舞いが取れるのだろう?
部活の合宿や,職場の研修でも,参加するととてもやる気になってイチから出直すつもりになるのに,結局何もしなかった,という顛末のような……?
真実は発見できても,それでも伏せられて,つい今までの自分を続けてしまう人だから,これまでも自分の利益のために見えないことにしてしまっていたのだろうか?
お勧め度☆☆☆☆
もう一度読み返してみたいです。
この小説の怖さが分かる人とそうでない人に分けられるでしょうね。
退屈だと思う人は読者じゃなかったということで。
私は勇気を出して,帰宅後,ロドニーにごめんなさいを言える人でありたいけれど,私の周囲の人は,そうであってくれるかしら?
ジェーンは強すぎるんだなあ。そして,彼女に勝てない周囲の人たちは傷ついたあげく,見たいものだけをもう見せておいてやろうか,といって,彼女にココロは触れさせないでいたいと願う。
ジェーンは孤独のただ中でいるしかない,でもその孤独を受け入れて立ち上がり,周囲と関われないなら,孤独も真実も知らなかったことにしておくしかないのだろうか。
もう一度読み返してみたいです。
ミステリとは言わないかな? なぜロマンチック・サスペンスなんて紹介されているかが謎です。ロマンチックなもんですか?
そして,ラストが,本当に辛くて哀れで。




Comments
No comments yet
Add Comment