10 February 2009

うまれてきたんだよ 内田麟太郎・文 味戸ケイコ・絵

うまれてきたんだよ (エルくらぶ)うまれてきたんだよ (エルくらぶ)
内田 麟太郎・文

解放出版社 2008-10-06


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こわいよ〜。
こわい絵本だよね〜。

絵本は子どもだけのものじゃない! 大人こそ絵本が必要! とは柳田邦男氏の運動だけれど、たしかにこれはいくら味戸ケイコがファンシータッチで絵を描こうとも、子ども向けではない。子どもに必要はないし分からないはず。そうであってほしい。


パステル画で、幼な子が座ってうつむいている姿が描かれている表紙。
「うまれてきたんだよ」と。
うまれてきたのはあのとき。 それは、いつ? どんなふうに? なぜ、うつむいている? といった不安を呼び起こすような場面の表紙画が右上にある装丁。


1ページめ。
希望のような「うまれてきた」のページ。
「ぼく うまれたんだって。」

やさしくやわらかい光を虹色に浴びているような、誕生。

次のページ。
「さんねんでしんだんだって」。

いきなり、表紙と同じタイプの絵になる。 陰のなかにいる幼な子。

子どもが語り手になることで、子どもが主役であるよりさらに衝撃的だ。
そして、もう死んでいる人が語り手であることに、ここからの遠さを感じる。
彼岸に逝ってしまった幼な子。
その子がまだ今もそこにいるかのように語りかける。
語りかけてくる。

次のページ。
「いつも なぐられていたんだって。」

ことばのの下には、後ろ向きのぐったりとした子ども。か細い手足。
右側には、立ち上がることもできそうにない弱々しさが影に向かって倒れそうにやっと両手をついて、すわっている。

次のページ。
「おなかを すかし、 とじこめられて いたんだって。
ひもじくて かみを たべていたんだって。」


・・・この暗闇につづく陰のなかで、ずっとこの子は生きていたんだ と思う。
でも、「〜していたんだって」の口調からは、この子はもうここにはいないと明らかにされている。
このまま、何ページか虐げられた生の様子が子どもの口から語られ続ける。闇のそばで生きていた短い生が語られている。

そして一方で、最初のページのような、まばゆい光のなかで生を受け愛を浴びて生きているもう一人の幼ない女の子の姿のページが挟まれる。
両親や姉と語らい合う姿。満ち足りた笑顔。あたたかく抱きしめられている至福の瞬間。
 「あれは なに? なにを しているの? 」
 「あれは なんなの?」  
 、とこちら側から見ているのは男の子。

愛を受けることを覚えないまま、見ているだけ。
見て、何か知りたい、けれどそれは何か分からないという哀れ。
なのに何か分からないそれを、求めている。

こんなに、怖くて苦しげで痛々しいページをめくったことがない。


最後のページ。
うまれたときに、たとえ人間が祝福してくれなかったとしても、
「かぜが そのとき いってくれたんだって。 」

と、生まれた瞬間、外気に触れた一人の子どもの誕生を見せている。
一人の子どもを迎えたこちらの世界で、私たちは「ようこそ」と言えるの?
という、強くてこわくて鋭い問いが向けられている。

この絵本のページを平気でめくれる人はいないでしょうよ。

お勧め度☆☆☆☆
よくぞ出してくれましたの絵本ではあります。
が、一点だけ。
味戸ケイコのファンシーな絵はかわいらし過ぎる感じもする。
もっと毒でも愛でも圧倒的な力があってもいい気もする。
満ち足りている女の子の方の画につけるストーリーなら合うのだろう・・・例えば雨降りの日のお迎えだとか、初めてのお遣いだとか、妹が生まれたとか。

暗い方の画も、とてもこわく感じるし、弱っていくつらい子どもの感じが分かる。なのに、ちょっと違和感があるのは「きれい」だからかしらん。「いとしさ」や「いつくしみ」といった丸みがありすぎているのかも。
たとえば(そんな病気があるのか知らないが)先天的な病気で感情を感じられず笑えない子どもと、虐げられた結果として表情のこわばった子どもの違いが、画面からは分からない。積極的に虐げられた訳ではなくても、人間に触れ合う機会が極端に少なくて無表情になる子どもであってもいいような画面に感じるのだ、臭くないというか、汚くないというか。(そこまで描いてしまったら、絵本としての美から遠ざかり、読まれないかもという不安があったのかもしれないけれど)
味戸さんの絵*1は嫌いじゃないし、やさしくてかわいらしくていつくしむような表現にはぴったりだし、幼い女の子の描くようなやさしいラインを基調にした絵の最上級にいると思うけれどね。
  • 注1佐々木丸美のカバーも手がけているじゃあありませんか! あの、北の館のひめ物語、いつくしみ願望の最上級ですわ


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